酒と本

健忘症の備忘録

日本人の戦争 ~作家の日記を読む~

比較的歴史は好きなほうだ。

とはいえ、近代史や現代史はあまり好きではなく、最も好きなのは中世史である。いずれは細川重男の「執権」や、小説ではベタだが吉川英治の「私本太平記」「新平家物語」なども備忘録に加えたいものだ。*1

 

ドナルド・キーンといえば日本文学研究家として有名であり、日本文学に関連する外国人では小泉八雲*2と双璧をなす有名人ではないだろうか。

最近テレビで三島由紀夫の特集をしていた時にキーンのコメントに興味を持ち、この本を購入したはずだ。

 

永井荷風高見順山田風太郎などの日記を引用しつつ、知識人たちの愛国心や反軍思想、現実に対する諦め、尊王思想などを驚きまたは、共感を持ってまとめている。特にキーンと同じ時代に生き、同じ本を読んでいた山田風太郎の強い愛国心と好戦的な態度には驚きの度合いが強い。

 

 とはいえ、私にとって最も印象深かったのは、戦時下という非日常な状況で人々は淡々と日常を生きていたことであった。

2020年現在、世界的に伝染病が広がり、人々はSNSという形で日々を記録している。その内容もまた淡々とした日常生活なのだろう。

だんだんと人々は政府の発表を信じなくなり、マスコミの発表も話半分、広がるうわさ話に一喜一憂する点でも、現在とリンクしており、今読んでおいてよかったと感じた。

酒は紫蘇焼酎、肴は煮しめで。

 

以下に気に入った部分を引用する。

高見も山田も、今や二つの同盟国を失った日本が、孤立したまま全世界を相手に戦うことになった事実には何も触れていない。しかし、高見はボルネオの戦闘についての新聞記事を読み五月十一日の日記に書いている。

 

 敵に明らかに押されているのだ。敗けているのだ。何故それが率直に書けないのだ。何故、率直に書いて、国民に訴えることができないのだ。

 今でも、いつも、こうだった。だから国民は、こういう気休めの、ごまかしの記事にだまされはしない。裏を読むことになれさせられた。すると、何の必要があって、こういう記事でなければならないのだ。

 

*1:好きな本ほど好きな場面が多くて引用部分が決めきれない。いつか加えられたらいいなぁ。

*2:本名はパトリック・ラフカディオ・ハーン 。代表作に「怪談」