酒と本

健忘症の備忘録

クライマーズ・ハイ

1985年に御巣鷹山で起きた航空機事故、日本航空123便墜落事故の報道に関する企業小説。

横山秀夫の代表作といえる。

 

主人公は地元紙の記者・悠木和夫。

未曾有の大惨事の中、新聞記者としての矜持、上司と部下に挟まれる状況での葛藤など企業小説として読み応えがある。

特に部下の苦労に報いるため上司へ啖呵を切る場面は白眉。

仕事に関する誇りを再確認したくなる小説である。

 

 

組織のなかで奮闘する小説は、高村薫の「レディ・ジョーカー」「マークスの山」、藤原伊織の「シリウスの星」などが思いつくが、横山秀夫の作品では上記の三作品に比べ、主人公の芯が揺れ動く部分が多く、より組織の人間であることを感じさせてくれる。ハードボイルド小説にありがちな、「自分の意地のためなら破綻もやむなし」といった、一種のやけっぱちさも感じないため、社会に生きる者にとってのリアリティーを感じやすくなっている。文体も上記の作家に比べ硬質ではない。

酒は瓶ビールか焼酎水割り、肴はスーパーの総菜なんかが合う。

 

 

以下に気に入った部分を引用する。

「俺はね、自分の死を他人におっかぶせて苦しめるってやり口が許せないんですよ。もっとも卑劣な死に方だ」

「もう言うな!」

悠木は目を開いて周囲を見渡した。

「俺は『新聞』を作りたいんだ。『新聞紙』を作るのはもう真っ平だ。忙しさに紛れて見えないだけだ。北関は死に掛けてる。上の連中の玩具にされて腐りかけてるんだ。この投稿を握り潰したら、お前ら一生、『新聞紙』を作り続けることになるぞ」